1円でも安く買うべきか、生産性を上げるべきか。今調達が直面する永遠の課題
調達購買業務において、「1円でも安く買う」ことを重視すべきか「生産性を上げる」ことを重視すべきか。という問いがあったならば、多くの調達購買担当者が「1円でも安く買う」ことであると答えるでしょう。一方で、人手不足・採用難の昨今、調達購買人材や購買現場において、より効率的で生産性の高い業務の要請が日に日に増していることも否定できません。
では、この2つはどちらをとればいいのか。両立は難しいのか。そんな命題を問うウェブセミナーを2024年3月に開催しました。本記事は、その内容を元にお届けします。さらに詳しい解説はこちらのアーカイブ動画でご覧いただけます。
【目次】
- 1. 「1円でも安く買いたい」vs.「生産性を上げたい」
- 2. 全体最適で考える方法
- 3. 成功するためには
- 4. まとめ
「1円でも安く買いたい」vs.「生産性を上げたい」
「1円でも安く買う」ことは調達購買のメインミッション
「コスト削減」、特に「仕入れ価格の低減」は、多くの企業の調達部門に課せられたミッションです。その重要性は、モノタロウの2023年のアンケート結果からも明らかです。
図1:間接材購買においても多くの企業のメインミッションはコスト削減
仕入先との価格交渉、複数の仕入れ先の比較、輸入品を扱う際の為替の動きの見極め、インフレの影響への対応等々、「1円でも安く買う」ため、日々血もにじむような努力を日々されているという方が多いと思います。
しかし、調達交渉のプロフェッショナルとして最優先で取り組んできたからこそ、「主要な施策はやり尽くしてしまった」「これ以上の単価引き下げは限界だ」と感じている方も多いのではないでしょうか。
トータルコストの考え方
コスト削減を包括的に行うためには、「単価(Price)」に限らず、あらゆるコストに目を向ける必要があります。ここでは「トータルコスト削減」と呼びます。
図2:トータルコスト削減の考え方
図2で上げているのは一例ですが、こうした様々な場面でかかる「工数」を削減することも、トータルコストの削減という観点では重要になってきます。つまり、「購買の生産性を向上させる」こともトータルコストを削減する一つの手段であるととらえることができます。
なぜ、調達業務の「生産性向上」が重要なのか?
生産性を上げること自体が、企業にとって現在喫緊の課題となっています。
日本企業の生産性の低さは世界的に見ても顕著です。公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2023」によると、OECD加盟国で時間当たりの労働生産性を国際比較した調査では日本は38ヶ国中30位と低い状態です(公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2023」)。逆に前向きに捉えるならば、伸びしろがあるとも言えます。
また、生産性における課題を調査したPwCコンサルティング合同会社の調査では、自社の改革を阻む要因について、日本国内では、「自社の硬直的なプロセス」「テクノロジーに対する自社の技術不足」や「自社の従業員のスキル不足」との回答が、最上位となっています(「PwC第27回CEO意識調査」, 2023年10月)。この中で取り組むとしたら、プロセスを改革していくことが、決まった業務の効率的な実行において、効果的であると考えられます。
生産性を上げるといってもどこから取り組めば良いのか、また継続すべき単価削減とどう折り合いをつけるのか、次にて解説します。
全体最適で考える方法
企業の購買品(物品)の構成を分析する際、次のような図がよく用いられます。調達業務に携わる方なら、一度はご覧になったことがあるかもしれません。
図4:企業の購買品(物品)の構成
Y軸(縦軸)が、単価×購入数量=金額の大きさ、X軸(横軸)が品目です。
今回は、便宜上直接材、間接材のヘッド・ロングテールと、A/B/Cの3つの領域に分類します。
Aの領域=直接材は、調達・購買担当のプロの皆様が既に時間をかけて交渉を重ねていらっしゃると思います。従い、金額も大きくインパクトが大きい領域ではあるものの、さらなるコスト削減余地があまり残されていないというのが特徴です。
一方、B・Cの領域=間接材については、品目が多く金額も安いというのが特徴で、実はコスト削減余地が多く残されている領域でもあります。
ただし、B・Cの領域においても、Aと同様に時間をかけて縦軸をできるだけ小さくしようというアプローチをするのが正解なのでしょうか。例えば、100円のボールペンの値段を下げるためにAの直接材と同様に価格交渉をするのは、やや非効率、部分最適のように見えてきます。
部分最適とはどういうことか考えるために、ここでは上記の図の見方を変えてみましょう。
実は、先ほど表示した縦軸(単価×数量)横軸(品目)のほかに、もう一つ考えるべき”Z軸”があるのです。それが、「時間コスト」すなわち、調達にかかる時間資源です。
上記の図は平面でしたが、Z軸(奥行)に「時間コスト」を足してみてみると、下記のような立体構造になります。
図5:全体最適を考える立体図
本来の調達のミッションが「トータルコスト」を削減することであると先に述べましたが、それは図3の「面積」ではなく、このZ軸・時間コストを加味した「体積」を少しでも小さくすることが本来の目的であるはずです。
それでは、体積を少しでも小さくするには、どのように取り組んでいけばいいのでしょうか。
直接材の場合
まず初めに、Aの領域=直接材については、「1円でも安く買う」すなわちY軸を少しでも減らすことが正解です。
図6:Aの領域
直接材は単価×数量=金額が非常に大きくなる領域です。その分、金額交渉等の時間コスト(Z軸)も多く発生します。しかし、金額が大きいが故、時間をかけたとしても単価を1円でも下げられれば、コスト削減のインパクトも何百万円とある領域です。ここでその「1円でも安く買う」努力を諦めてしまえば、Z軸はほんの少し短くなるかもしれませんが、たちまちY軸の金額が膨れ上がってしまいます。すなわち、この領域に関しては生産性にはある程度目をつぶってでも時間をかけてサプライヤと交渉し、1円でも安く買うことが正解といえるでしょう。
間接材の場合
続いて、間接材の領域(BとC)です。この領域は非常に品目数が多く、X軸(品目)が長くなっています。また、内訳をみていくと間接材というのは単価1万円以下の品目が85%、1年で1回しか購入しない品目が70%と言われています。Y軸(単価×数量)がもともと少ない傾向にあるのです。
図6:B/Cの領域
こちらの領域は、まずは生産性を上げる調達方法が最適といえるでしょう。1年に1回しか購入しない1万円以下の商品1品目を、業者と交渉して良い単価で契約できたとしても、図の縦軸を短くできる幅はわずかとなってしまいます。一方、Z軸・時間コストに関しては、大幅に削れる余地があります。その削減方法とは、ECサイトでの購買を用いた「生産性重視」の調達です。EC購買を活用することで、見積、価格交渉、発注の手間を大きく削減することができます。この領域は「1円でも安く買う」インパクトが小さいためそこをある程度妥協し、時間コストを削減する、生産性を上げることに注力するのが最適です。
BとCの領域は「まずは」生産性を上げるとお伝えしましたが、この領域をECサイトを用いたデジタル調達を進め、購買データができてきた際には、単価と購入数量の比較的大きい領域が見定まってきます。自社における「間接材のヘッド」、Bの領域の範囲を見定めるのです。
この段階に来たら、Bの領域に関しては「生産性を上げつつ」「1円でも安く買う」という両立の領域に取り掛かることができます。EC購買で生産性を担保しつつ、1円でも安いECサイトから購入する、といったことがこの段階では取り組めます。
成功するためには
自社の調達でA/B/Cのそれぞれの領域を最適化していくためには、購買の状況を網羅的に把握する必要があります。そのためにまずは電子化をして購買実績のデータを集める・寄せることが必須となってきます。
といっても、実際に電子化を始めるのにハードルを感じたり、今まで見積をしていたところをECに切り替えて本当に効果が出るのか心配な方もいらっしゃると思います。次では、拠点からスモールスタートでEC導入を始めた事例を紹介します。
総合包装材メーカーであるレンゴー株式会社様においては、もともと間接資材購買においては本社稟議が必要な金額を超えない限り各工場や子会社がそれぞれのプロセスで発注を進めていました。
しかし、全社にて働き方改革のためのDX化プロジェクトが発足し、間接資材購買の領域においても現場の意見を集めてみることで様々な課題が浮上しました。
アナログな業務の進め方により、購入と経理処理に多くの工数がかかってしまうことや、商社価格の妥当性の判断が難しいこと、そして本社においては、全社で購買データがブラックボックス化しておりガバナンスが効かなくなってしまうことも課題となっていました。
こうした課題を解決すべくモノタロウの間接資材購買システム「ONE SOURCE Lite」を検討していただきました。導入までの進め方として、今まで各工場・子会社でルールを設けていた状態でもあったため、一気に強制的にプロセスを変えることは本社から全拠点に導入を無理強いするのではなく、希望のある拠点から導入を進めました。
拠点ごとに導入を進めたことで、導入拠点から前向きな意見が多く寄せられ、現在ではすべての工場にシステムを導入・それぞれの運用に沿った使い方をしていらっしゃいます。
システム導入後、オンライン比率は5割から8割まで増加し、各拠点の見積・購入依頼や経理処理の工数が大幅に削減されました。また、導入によっていつだれが何を購入したかという情報がすべて自動で記録され、見える化が実現しました。
生産性の向上と見える化をB/Cの領域で実現した状態にあり、現在はよく購入する商品のプライベートブランド商品への切り替えによるコスト削減、また環境配慮型商品の購入の取り組みなど、B領域を積極的に改善していくフェーズに移行されています。
リスクを抑えられる拠点からのスモールスタートで電子化・効率化に成功し、蓄積してきたデータを活用して領域ごとの最適化に取り組んでいらっしゃる成功事例として非常に参考になるのではないでしょうか。
まとめ
はじめに、「1円でも安く買う」べきか「購買の生産性を上げる」べきかと二項対立のように書きましたが、実際は単価削減を重視する領域と生産性を重視する領域を使い分けることで、調達の全体最適ができます。
その使い分けを見極める第一歩として、まずは調達を可視化・データ化することからぜひ取り組んでみてください。
モノタロウでは、間接資材の購買を統合するプラットフォーム・ECサイトの集中購買ソリューションを提供しています。また、モノタロウの購買実績をデータにまとめてレポーティングしており、データを活用した最適化のサポートもしています。
また、本内容は3月に行ったウェビナーを基に執筆しています。立体図の概念の複雑な部分の解説や、紹介しきれなかった事例等も扱っておりますので、よろしければぜひご視聴ください。
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